2024/5/17-2022/5/26
(その日の)南中から日の入りまで
monogendou
Installation view▼
Statement
この展示では、2021年ごろから継続して制作している《夜明け》というシリーズの絵を展示しています。
《夜明け》は画家パウル・クレーの『造形思考』という本の中で述べられている「灰色の点」という概念をもとにしています。クレーによれば、灰色は全ての色でありながらいまだどの色でもない、そして点は全ての次元でありながらいまだどの方向も示していないもの、つまり「灰色の点」は有限性と潜在性を媒介する絶対的な中間状態として存在するのだといいます。
とすれば、夜明けは灰色の点なのではないかと思えてきます。朝は全てに色が与えられ、夜は全ての色を潜在的なものへと沈め込んでしまう。夜明けは、こうした朝と夜を媒介する、まさにいま、世界が色付けられようとしている力のプロセスそのものです。『夜明け』では、こうした定まりそうで定まらない力の働きを色、形、その集合としてのモチーフによって絵に与えようと試行錯誤しています。
さて、会場であるモノゲン堂では焼き菓子と喫茶の提供があります。そのため、会場内でゆっくりできるようにテーブルとイスを設置しました。ぜひくつろいでいただけると嬉しいです。特にここのチョコブラウニーはとっても美味しいですよ。
また、会場の机や棚には今回の展示作品に至るための本を家から選んで設置しました。ぜひ喫茶を楽しみがてら、気になった本をパラパラとめくってみてください。好きに手に取ったり、移動させても大丈夫です。一緒に紙やノート、パステルも置いてあるので、もしよければ合わせて感想や気づきなどなんでもメモしてみてください。作品や本に触発されて絵を描いてみてもいいかもしれません。それらは持ち帰っていただいても、机に置いていただいても大丈夫です。作品が結晶だとすれば、机に置かれた本たちはそれを分解したものたちです。多分それを全部読んだところで完全に作品を理解したとはいえないでしょうし、きっとそんなことよりも、その分解した思考の隙間に入り込み、そこでまた新たな思考が生まれたり、それがまだ見ぬ誰かに届いたりする。そんな空間と鑑賞があってもいいなと思います。
展覧会の副題である「私の領土」や作品の内容について、会場内では一才、説明がありません。作品が結晶、本が分解だとすれば、作品の説明はレシピや地図の類だと言えるでしょう。私はあまりその類の記述を行わないのですが、今回は展覧会が閉まった後の夜に会場前で冊子を無人配布することにしました。そうすることで、レシピや地図は目的に従属することなく、冊子を手に取った方自身のものになればという思いを込めて。冊子にはf3hitoさんによる寄稿も収録されています。気になる方はちょっとハードルがありますが、また改めて夜更けの頃にここへ足をお運びいただければと思います。
宮崎 竜成