金沢美術工芸大学大学院博士後期課程研究発表展

2023/2/15-2023/2/20
10:00-18:00
21st Century Museum of Contemporary Art, Kanazawa citizen gallery A

Work:

《夜明け(phenomenon crisis) 》
パウル・クレーは全ての起源を「灰色の点」といいました。クレーによれば、灰色は全ての色であっていまだどの色でもない、そして点 は全ての次元であっていまだどの方向も示していないものであって、つまり「灰色の点」は有限性と無限性を媒介する絶対的な中間状態 としてのカオスとして存在するのだといいます。 とすれば、夜明けは灰色の点なのではないかと思えてきます。朝は全てに色が与えられ、夜は全ての色を潜在的なものへと沈め込んでし まう。夜明けは、こうした朝と夜を媒介する、まさにいま、世界が色付けられようとしている力のプロセスそのものです。こうした夜明 けの力、定まりそうで定まらない力の働きそのものを絵画の構成要素たる色彩、形態、それらを媒介する物質の最小単位、そして絵をみ る者の目に対する反芻によって絵画に与えようとしました。2感覚を撫でる(独奏) 自分の身体とそれを取り巻く空間とが、対等に振動として関わることを音と身振りで確かめようとしました。映像ではひたすらマイクで 自身と空間の壁面や地面をなぞり続け、そのでの力の働きを紙とペンでドローイングしています。マイクと身体、マイクと壁面の摩擦に よる振動が振動スピーカーを介して展示空間の壁面とスピーカーとの摩擦に置き換わる。そこではマイクと身体との摩擦の感覚を展示空 間の壁面自体がスピーカーとともに経験しています。そしてそれは紙とペンとの摩擦も同様です。全てを摩擦と振動で貫く。

《トリプティック(body hazard)》
身体はまずもって振動を媒介する管であること。スポットクーラーはダクトによって繋がれ、それぞれ冷風と気化熱による温風を排出す る(口と肛門、腸)。ミキサーやアンプはケーブルからケーブルへと電気信号をマッチポンプ的に増幅する(血管と心臓)。スピーカーは 送られてきた電気信号を自身の震わせることで空気を振動させ、音を発する(肺)。それらを構造として支えるパイプ(骨)、私自身が振 動を媒介する単位になろうとする演奏の映像を写すモニター(目)、等々。身体を模倣としてではなく機能として組み立てる、そしてそれ が音のノイズや風力によって失調しつつも表現として個々にに関わり、質的なかたちをなす。私は毎日この身体の配線や電源を整え、クー ラーに溜まった水を排泄しながら管理をしています。4眼と精神 このタイトルは哲学者であるモーリスメルロ=ポンティの著書から引用しています。モニターに映し出された目は私が絵を描いている際 の目線を全て記録し、編集したものです。この眼差しは本来絵画に向けられたものですが、映し出された目はこの絵を観る側に向けられ ています。この目を交点として四つに分割された画面には、色彩の対比で構成された絵と網膜剥離のレントゲン写真が描かれており、そ れが荒くぼかされています。

《分解者のモニュメント (material groove)》
1. 陶芸用に精錬された土と、精錬されていない土、そして絵具をつなぐためのメディウムを混ぜ合わせた土をパネルに塗り込んでいく。 土は手跡をかたちとしてダイレクトに残すが、歪な乾燥によって物質自体が手跡を横断するように割れる。制作する上での観るという行 為(俯瞰)と物質に触れる行為(感覚)とのモジュレーションがかたちと時間を成すための物質的やりとり。
2. ミミズはゴミを自身の体に取り込み、排泄することによって土壌を形成する分解者です。異質なものを自身の身体を媒介として生成変 化させるミミズはある種のリズムとしての存在であると私には思われます。そして、ミミズのような筒状の形態を手だけで作ろうとした 場合、両手の力の働きかけが線の強弱として表れます。そして自身の身体をこうした両手で粘度を引き回す力の働きかけとして捻ろうと する映像がスマートフォンに映されています。制作を、こうした物質とかたちとを媒介する分解者として、そして作品もその交差点とし て絡み合うものを志向した行為の集積。

《意志は頭にあるか先端にあるか(ミミズと果肉) 》
ミミズが捻れて引きちぎれる絵です。身体を引きちぎろうとした場合、その前後で同時的に力が働かなければなりません。そうした場合、 ねじれようとしているのは頭の方か先端の方か、もはや分からなくなります。頭で考えてアラだを動かすのか、身体の働きかけで思考や 判断が形成されるのか、こうした一つの方向による働きかけを脱臼する「捻れ」。周りでは弱々のグリッドで分割された画面に、グリッド の中に押し込められていたり、それをきざんだり、押し広げようとしたりする絵具のタッチが描かれています。それらを全て横断するよ うにミミズの頭と先端から力が放射しています。
そういえば、肉眼レベルでは私たちはミミズの頭と先端を区別できない気がします。