Polaris


2021/10/23-2021/11/3
13:00-20:00




「Polaris」は金沢ナイトミュージアム2021の一環として行われる展覧会であり、イベントや、展覧会会場での日常など複数の出来事が複雑に嵌入することによって共同体について検証するものとなる。

ポラリスとは現在の北極星に当たるこぐま座の恒星である。北極星は広大な空の中の一つの星であるが、その僅かな一つの煌めきが膨大な領土を示す。様々な個人としての私たちが今、ここにいること、それ自体を指し示すたった一つの立札。しかし、一見絶対的なものに思われるそれは、歳差運動と星自体の固有運動によって北極の極地からズレ続け、数千年の年月をかけて別の星に北極星の座を空け渡す。ポラリスは変遷する領土だ。

共同体とは様々な個人が集合し、一つの領土性を示すものだ。本展覧会では、作品やそれを取り巻く環境とのやりとりを通し、共同体をポラリス=変遷する領土として観測することを試みる。





Summary




金沢ナイトミュージアム2021企画
Polaris ポラリス


会期:2021/10/23-2021/11/3 13:00-20:00(会期中無休)
会場:芸宿 〒920-0942 石川県金沢市小立野4-2-1すみれ台ハウス
企画:宮崎竜成
アーティスト:慈・林修平
メインビジュアル:山本千穂
制作協力:石川愛美
主催:公益財団法人金沢芸術創造財団、公営財団法人金沢文化振興財団
共催:金沢市
問合せ:公益財団法人金沢芸術創造財団(076-223-9898 平日9:00-17;00)



-序- 可塑的な共同体/変遷する領土

我々は常に、社会の中の一部、つまり共同体の秩序を担う一部、あるいは主体的に世界を捉えていくような一個人という相反する状態を共存させている。「わたし」という1人の個人的な身体を定義する時、そこには社会における制度や階級が否応なく付き纏う。どこの会社に勤めているか、どのような家族構成か、性別、人種、言語...。そこには様々なスケールでの共同体が形成されている。それぞれの共同体には異なるルールが存在し、そのルールに則って自らの行動を振る舞う。ルールはある中央集権的な権力によって規定される場合もあれば、自立分散的に様々な個人が行動し、それぞれの折り合いがつく一定の基準を設けることで構成される場合もある。また、それぞれの個人の思惑が自然とイデオロギー化し、共同体の中でそれぞれの人々が自ら生み出したイデオロギーによって無意識に統治される場合もあるだろう。

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芸宿という場所は面白い。芸宿には目指すべき理念がない。芸宿は「誰かにとって都合の良い 場所」ということを立ち上げ当初からキャッチフレーズとしている。それは、芸宿という一つの共同体として理念を掲げるのではなく、芸宿を取り巻く人々や、その周辺それぞれの理念が尊重され、交錯することを意味している。相反するものたちがひしめき合い、場を共有すること。そこには美術における志や一つの共同体としての運営は存在しないと言っていいだろう。あるものはただ生活のために移住し、あるものはアーティストとして企画を行う。あるものは食事を定期的に振る舞い、あるものは芸宿自体の維持管理として会計を行う。その中には芸宿の歴史や文脈をよく知る者もいれば全く知らないままの者もいる。それは極めて閉じられたサイクルである一方、近所のおじさんおばさんや飲食業の運営者がふらっと現れたり(立ち上げ人の弛まぬご近所付き合いによるところが大きい)、見ず知らずの学生や美術関係者が現れたりするなど、極めて開かれた空間でもある。それらのものが現れる時、住人は平然とその場で共存する( 招き入れるという態度すら希薄であると言ってもいい)。このように芸宿は一つの共同体や 運営として表象するのが困難であり、複数の個人的領域やその時々の共同体が互いを打ち消し合うことなく共存しながら、その都度変化し続ける空間、事象としてある。

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そもそも、これほど共同体について考えることになったのも、わたしがナイトミュージアム企画の一つとして、芸宿を使って、あるいは芸宿主導でイベントを行ってほしいと頼まれたことに起因している。わたしはその時、芸宿関係の人として認識され依頼を受けたのだが、ナイトミュージアム事業を通して芸宿をパッケージングされた表象として提出することはしたくなかった。だからと言って、芸宿のギャラリースペースを間借りして展示する、というのも違う。むしろ芸宿という一つの場が持つ極めて複雑な共同性にこそ、目を向けるべきではないか。身内的な閉塞感があり近付き難いようで、実際に住んでない人々もそれぞれの当事者性を持つ。閉じながら開かれる場所。そこでは様々な当事者性がうごめき、様々な都合の良さをかすめ合いながら、時に人々が入れ替わりつつ可塑的に持続している。それを「共同体」という言葉を手がかりに展覧会を通して取り出すことについて、実践したいと思った。しかしそれは芸宿をテーマとして行われるものではない。可塑的な共同体に、展覧会という形式によって作品=物=身体が挿入される、それが肝要なのだ。
ある環境に作品が置かれるということはそこに領土が生まれるということだ。とある空間に物が置かれている。それを自覚的に経験せざるを得ない展覧会という形式は、そこに住む人々の身体やその痕跡(共有スペースに置かれた食器やレジデンススペースの萎れた布団)をも巻き込みながら、絶えず異なる領土性の衝突を起こし、相互の身体や環境自体が作り変えられるかもしれない事態を引き起こす。作品の挿入、領土の発露は、それを取り巻くあらゆる存在の営みをその持続から強烈に切断/引き剥がし、それぞれにバラバラの知覚を与える。そのバラバラの知覚の出会いと、複数の個人的領域のせめぎ合う共同性を重ねて見せること。

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ポラリスとは現在の北極星に当たるこぐま座の恒星である。北極星は広大な空の中の一つの星であるが、その僅かな一つの煌めきが膨大な領土を示す。私たちが今、ここにいること、それ自体を指し示す表現の立札。しかし、一見絶対的なものに思われるそれは、歳差運動と星自体の固有運動によって北極の極地からズレ続け、数千年の年月をかけて別の星に北極星の座を空け渡す。ポラリスは、我々に北の地点を指し示す記号的イメージである前に、一つの物質なのであって、我々の観測する距離では認識不可能なその物質は、他の惑星や恒星と複雑に干渉しながらその位置を移動する。北極星という領土性は結局人間の制度や文明が規定したものでしかなく、様々な星による複雑な運動によってその意味は容易く剥がされてしまうのだ。膨大な時間の中で、ポラリスが指し示す領土の意味は変化する。ポラリスは変遷する領土だ。常に同じ基準を持ち続ける共同体などあり得ない。芸宿も、様々な速度で人々が入れ替わる。展覧会で置かれる作品も、それが絶対的な基準になり得ることはなく、様々な制度のなかでその身体のあり方を絶えず作り替えるだろう。本展では、作品やそれを取り巻く環境とのやりとりを通し、共同体をポラリス=変遷する領土として観測することを試みる。

文章 宮崎竜成




Artist




慈 Itsuki




-経歴-
1986年 東京都生まれ
主な個展に「スーパー・プライベートIII- 約束された街で -」( 新芸術校 五反田アトリエ、2018)、主なグループ展に第 11 回大黒屋現代アート公募展(栃木県板室温 泉大黒屋、2016)「声の棲み家」(プライベイト、2021)など。





林修平 Syuhei HAYASHI




-経歴-
1993年 愛知県生まれ
主な個展に「衛生」(IN SITU、2021)、主なグループ展に「声の棲み家」(プ ライベイト、2021)、「群馬青年ビエンナーレ 2021」( 群馬県立近代美 術館、2021) など。





Director




宮崎竜成 Ryusei MIYAZAKI


-経歴-
1996年 京都府生まれ
アーティスト/金沢市民芸術村アート工房ディレクター
主な個展に「その声は歌になるか、その音は律動するか」(彗星倶楽部、2020)、主なグループ展に「ゆるやかな一瞬」(芸宿103・地下駐車場・ダージャ・彗星倶楽部)、「深海のような、あるいは/I miss you,Polaris」(会場非公開、2020)、「写真的曖昧」(金沢アートグミ、2018)



Event







<貸民家プライベイト オープンハウス>


日時:2021/10/23-2021/11/3 13:00-20:00

本展参加作家の慈がプライベイトの間取りを模した仮設建築を出品いたします。本イベントは慈の作品の一環として行われる仮設プライベイトの見学会です。

会場:芸宿屋上・102号室・103号室
〒920-0942 石川県金沢市小立野4-2-1すみれ台ハウス
見学無料

関連イベント
プライベイトの説明会&抽選会in芸宿


日時:2021/11/3 17:00~17:45

貸民家プライベイトのオープンハウスに際し、来年2022年のいずれか一月、プライベイトの利用料が無料になる抽選会を行います。抽選に選ばれた方は、来年、当選者の企画(企画は当選後に考えても良い)をプライベイトにて無料で開催して頂けます。皆様の参加を心よりお待ちしております。

*抽選の参加は金沢在住の方限定です(住民票が金沢でなくても、現在金沢に住まれていれば参加していただけます)。



<クロージングトーク>


日時:2021/11/3 18:00-19:30

アートと集団は今日様々なあり方が検証されています。トークでは展示作品について解説しつつ、その 展示作家の運営するアートスペースとコミュニティについて、ゲストモデレーターを交えながら議論します。

司会: 宮崎竜成(アーティスト 本展企画)

登壇者:
慈(アーティスト)
林修平(アーティスト)
小倉拓也(秋田大学 准教授)
藤谷千明(ライター)

会場: 芸宿 101号室 石川県金沢市小立野 4-2-1 すみれ台ハウス
定員:15 名(要予約 ) | 申し込み開始 10/23
申込:076-225-7780(金沢アートグミ 10:00-18:00 水曜定休 )
もしくは ryusei.oil@icloud.com まで
料金:500円(当日会場にてお支払いください)




Access




芸宿


バス:金沢北陸鉄道バス 天徳院前バス停より徒歩3分

駐車場:駐車場はございませんが、芸宿施設前に二台ほど駐車スペースがございます。もしスペースが空いていない場合は近くのパーキングに駐車の上ご来場ください。

*天徳院の駐車場には駐車しないようご注意ください。もし駐車されて罰則金が生じた場合、一切の責任は負いかねます。






 




©︎Ryusei MIYAZAKI 2021