金沢市民芸術村は、市民に開かれた芸術活動を支援し、また積極的な企画事業を行うことを目的に金沢芸術創造財団が母体となって運営される公共芸術施設。アート、ミュージック、ドラマという三つの工房施設があり、金沢市民の募集によって採用された2名のディレクターによってイベントや事業の企画・運営が行われており、2021年4月から2024年3月までアート工房のディレクターとして企画・運営を行った。
主要な企画・事業

Art-SITE(2022〜)
Art-SITEは、金沢市民芸術村の空間を生かした構成を前提に、個展形式で様々な媒体を扱う作家の展覧会を行う企画。私が立ち上げた中で一番大型の企画シリーズ。普段の金沢市民芸術村の理念が北陸の「内」から主体的にアート工房の場(SITE)を創造するとすれば、本企画では作品制作にとどまらず、作品が置かれ、鑑賞をする空間や人の働きに対して積極的に意識を向けるアーティストを招致し、普段の金沢市民芸術村とは別の角度からアート工房の実験的な運用方法を実践・提案する場として思考していた。現在も形を変えて規格は継続されているが、私のディレクター時代には、陶芸家の武内もも、画家の菊谷達史、彫刻家の久保寛子の個展を行った。
→ Art-SITE vol.1 武内もも個展「待つ身体、眠る身体」
→ Art-SITE vol.2 菊谷達史個展「スノーモンスター・ウィズ・ワーキングドッグ」
→ Art-SITE vol.3 久保寛子個展「鉄骨のゴッテス」

うらあやか個展 貝の/化石が/跡を残して/化石の/雌型/となった/身体(2021)
ディレクターになってから単独で一から企画した初めての展覧会。パフォーマンスアーティストであるうらあやかの個展。うらさんがそれまでに行ってきた様々なパフォーマンスをスコア(文章)化し、私が声をかけた8人の参加者に、毎日ローテーションで開場時間の8時間、ひたすらその端的で削ぎ落とされた指示を解釈しながら、パフォーマンスを行ってもらった(私もパフォーマーとしてほぼ毎日参加した)。これはうらさんにとって、パフォーマンスをアーカイブすること、保存すること、パフォーマンスが作者の手から離れることによって初めて立ち現れる感触について実験・実践する場となった。
この企画によって、アーティストが実現したいことにどう並走するか、どのようにアーティストの揺れ続けるグルーヴの中を泳ぎながら確かな物を持ち帰る事ができるかということに向き合いつつ、それは徹底した事務のクリエイティビティの中にあるのではないかといったような今の私のディレクションの方法を形づくるきっかけとなった。また、うらさんの仕事を見て、私が考えるリズムが、一つの身体ではなく、集団(社会)としての身体に拡張する手がかりとなり、それが翻って、アーティストがディレクションをするという二重性を考えるきっかけにもなった。
→ うらあやか個展 貝の/化石が/跡を残して/化石の/雌型/となった/身体

アートな仕事ークVol.9 アートと安全 そこでは何が守られるのか(2023)
「アートな仕事ーク」とは、一つのテーマから芸術分野の現場に関わる専門分野をピックアップし、その分野に携わる方々とトークイベント形式でそのテーマや分野を現場の観点からとことん掘り下げるアート工房の各年企画。私がディレクターに就任する前から継続して開催されてきたシリーズであり、これまで、地方で芸術祭を開催する個人ディレクター、育児をテーマに作品を制作し、社会学研究を行う夫婦、自身で製本まで行う絵本作家など、様々な分野の方をお招きしてトークイベントが開催された。
私が担当を務めた第9回目では、「安全」というテーマでトークイベントおよび「安全」をテーマにとした展覧会を開催した。
昨今、芸術をめぐる問題は、作品と人命に関わるものから、さまざまな人に対する空間やイベントのアクセシビリティ、そして作家が作品を作る際のケア及び人との関係をめぐるセーフティラインにまで及び、また考える必要があるように感じる。表現の自由と安全対策との間の中で作品や空間ををどのように実現するか、そして、そこに関わる人々や作品との間に生ずる倫理をどのように考えるのか、芸術を通して心身の安全な場所をどのように作り上げるか、そこではどのような技術が開発されうるのか。ゲストには心身のケアとしての安全の観点からは西原珉、物理的な安全とその規定を巡る観点からは津田三朗を迎えて様々な事例を元に話を伺った。
関連展覧会では、岡千穂、深田拓哉、山岸耕輔によるグループ展「OVER ROAD」を開催した。
→ アートな仕事ークVol.9 アートと安全 そこでは何が守られるのか

《鏡花の部屋Ⅱ》「体感!高野聖の映像屋敷」(2022)
四年に一度、金沢市にて開催される「泉鏡花フェスティバル」からの依頼を受け、「泉鏡花フェスティバル」実行委員会と金沢市民芸術村アート工房とのの共同事業として企画したイベント。
アート工房の空間を暗室にし、巨大な布を複数吊り下げ、金沢の舞踏家の松本拓也が泉鏡花の小説ある『高野聖』の登場人物や出来事について踊る映像を三面で映し出し、また、二組の朗読家による小説を元にしたテキストの音声が複数流され、さらに独特な重奏的情景を音響によって会場に表現した。
泉鏡花が高野聖で試みた「複数の語りを重ねることで出来事や情景が非現実的な幻想を帯びる」という構造を、光・踊り・朗読・音という様々な表現の混じり合いとして直接体感することで、演劇とはまた別の空間表現を行う体験型イベント。本企画では、共同ディレクションとしてアーティストの今尾拓真に参加していただいた。
共同企画・事業

「Sym-」企画公募(2021〜2022)
本企画は、金沢には金沢在住で活動を続けるアーティストを支える公的発表の機会が少ないという私自身の問題意識と、当時一緒にディレクターを務めていたモンデンエミコ氏のアイデアによって立ち上げられた現代美術をベースとしたコンペ事業。アート工房のディレクターが企画を行うだけではなく、この北陸という場で活動を行うアーティストの独創的な企画を芸術村で発信するべく、北陸在住の方を対象に展覧会の企画公募を実施した。公募のタイトルである「SYM-」は、「共に•同時に」を意味し、symmetry、symbiosis、symphonyなど、symが頭につくことで後ろの単語を補う役目があり、アート工房と企画者とで共に作り上げる実験の場(Sym-な場)となれるような、そんな想いが込められています。公募は二年しか続かなかったが、助成金支援や企画並走、アーカイブ冊子作成、レビュー等テキストによる記述など、ただコンペで採択するだけではなく、共にアーティストの活動を多角的に発信する場を作り出せるよう試行錯誤しながらディレクションをおこなった。
→ 「Sym-」企画公募 2021 募集
→ 採択事業:吉川永祐、北原明峰、松川祐実「何かを忘れているような気がする。」
→ 「Sym-」企画公募 2022 募集
→ 採択事業:北陸即興「わたしは未来を思い出している」

上田普 個展ー蹟SEKI-
本企画は金沢ナイトミュージアム2021のコーディネーターである金谷亜佑美氏が企画した書道家、上田普の展覧会を、金沢市民芸術村アート工房と共同で実施したものである。企画趣旨やキュレーションは金谷さんを中心に行い、私は金谷さんと共に展覧会の会場構成やパフォーマンス構成等のディレクションで関わった。

100万人のキャンドルナイト in 金沢市民芸術村(2022〜2023)
照明を一斉に消してロウソクの静かな灯りの中で環境について考えようという、環境省のライトダウンキャンペーンと連動して開催する企画。私がディレクターとして就任する10年以上前から継続して開催され、毎年来場者が1日で4000人を超える金沢市民芸術村最大規模のイベント事業。
2022年〜2023年共に、私はキャンドルの光と連動するライブイベントのディレクションを担当した。2022年では音楽ユニット、misiiNと、シンガーソングライターのながとろを招致して、キャンドルに取り囲まれた水上ステージのライブパフォーマンスを開催した。来場者も過去最高規模であったが、「環境について考えようというテーマが形骸化し、ただのキャンドルが超綺麗な観客動員ライブイベントとしてやるのは絶対なんかおかしくないか?」と感じた私が、共同でディレクションしていたモンデンさんと話し合い、2023年の実施では、もっとキャンドル自体のプリミティブな見せ方を工夫し、キャンドルにスポットを当てられる設置の仕組みを考案した。
ライブイベントでは、マイクもスピーカーもアンプも照明も一切用いず、打楽器奏者のコミュニティである石川ジャンベクラブを招致、キャンドルの空間を掻い潜りながらどこからともなく始まるゲリラの打楽器演奏を演奏ルートを含めて設計し、演奏してもらった。
→ 100万人のキャンドルナイト 2022 in 金沢市民芸術村
→ 100万人のキャンドルナイト 2023 in 金沢市民芸術村